死せる獣 殺人捜査課シモンスン/ロデ&セーアン・ハマ(ハヤカワミステリ)

警察ミステリの本場英米に対して、北欧は名シリーズ〈マルティン・ベック〉シリーズを生んだ文化圏として、聖地と呼ぶに相応しい。その命脈は二十一世紀にも引き継がれ、近年も注目すべき作品が発信され続けているが、デンマークから登場した『死せる獣-殺人捜査課シモンスン-』の兄妹作家ロデ&セーアン・ハマもそのひとつだ。
コペンハーゲン郊外の学校で、異様な殺人現場を子どもが発見した。体育館の天井から吊るされた五体の死体には、幾何学的な精緻さとともに、信じ難い損壊がなされていた。知らせを受けた殺人捜査課のシモンスン警部補は、娘と過ごしていた水入らずの休暇を中断し、捜査の陣頭指揮にあたる。犯人の動機が明らかになったきっかけは、出所不明の噂だった。殺された男たちは、いずれも小児性愛の常習犯だという。犯人の仕業と思われるプロパガンダが次々奏功し、世論はどんどん殺人犯へと傾いていく。そんな逆風が吹く中、シモンスンはリスペクトを捧げる警察OBで元上司のプランクに助言を仰ぎ、秘策を授けられるが。
デンマークといえば、すでに〈特捜部Q〉のシリーズが好評を博しているが、強力なライバル登場といっていいだろう。個性際立つ捜査陣の面々や法と正義の境界線をめぐるせめぎ合いをテーマにしている点など共通項も目立つが、それでいて肌合いはまったく異なる。大胆かつ緻密な犯人の犯行計画が徐々に明らかになっていく前半に対し、後半は読者にも伏せられた秘策のなんたるかを読み解いていく面白さへと収斂していく。個人の領域に踏み込まれた警部補が、犯人へ激烈な怒りを向けるクライマックスは、ポケミス五百頁超えの大作をしめくくるに十分な読みごたえといえよう。
[ミステリマガジン2012年8月号]

死せる獣―殺人捜査課シモンスン (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

死せる獣―殺人捜査課シモンスン (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)