私が、生きる肌/ティエリー・ジョンケ(ハヤカワミステリ文庫)

八年前に翻訳紹介されるや、〈このミス〉の年間ランキングにもくい込んだティエリー・ジョンケの「蜘蛛の微笑」だが、新装版の『私が、生きる肌』(ハヤカワ文庫)として再登場した。昨年、〈オール・アバウト・マイ・マザー〉でおなじみの巨匠ペドロ・アルモドバルによって映画化されたが、今回の復刊はその日本公開に合わせてのもので、新タイトルも映画からとられている。
視点も語り手も異なる三つの叙述から、やがて天才的な形成外科医リシャールとその愛人エヴをめぐる恐るべき秘密が浮かび上がってくる。巧妙にして読者を打ちのめさずにはおかない物語は、まさにフレンチ・ミステリの逸品で、似て異なるものに仕上がったアルモドバルの映画と較べつつページをめくるのも、オツなものだろう。(解説を担当しました)
(波2012年7月号)

私が、生きる肌〔ハヤカワ・ミステリ文庫〕

私が、生きる肌〔ハヤカワ・ミステリ文庫〕