捜査官X/ピーター・チャン監督(香中・2011)


ピーター・チャン監督の『捜査官X』だが、ドニー・イェン演じる謎めいた男が、クララ・ウェイ、ジミー・ウォングといったクンフー・スターのツワモノたちを向こうに回して堂々と渡り合っていく後半は、武任映画として息を呑む出来映えだ。しかし、ミステリ映画好きとして興奮をおぼえるのは前半だろう。雲南省のひなびた田舎の村に流れ着いたお尋ね者が、行きがけの駄賃ほしさに働いた強盗事件をめぐって、思いもかけなかった真相が明らかにされていく。
ひとつの出来事を別の角度から検証し、事実を覆していく過程を映像でみせるシークェンスは実に痛快。捜査官Xこと金城武のちっとも空気を読まない猛進ぶりも愉快だが、平凡な村人に思えたドニー・イェンの秘密が暴かれていく展開には、水滸伝の世界に越境するような面白さもあって、スリリングだ。ミステリ映画の快感とクンフー映画の興奮が一度に楽しめるお得な一本といっていいだろう。
日本推理作家協会報2012年7月号]
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