青い塩/イ・ヒョンス(韓・2011)


メガホンをとるのは十一年ぶりというイ・ヒョンスン監督の『青い塩』は、『殺人の追憶』で刑事役だったソン・ガンホが、今度は引退したアウトローを演じる。ヤクザの稼業から足を洗い、ソウルからプサンに移り住んだソン・ガンホの目的は、母親の故郷で食堂を開くことだった。料理教室に通いはじめた彼は、そこで同じ生徒で無愛想なところのあるシン・セギョンと知り合い、次第に心を通わせていく。しかし彼女は裏社会から男の監視役の仕事を請け負っていた。
前作『イルマーレ』がハリウッドでリメイクされ話題になったが、そのせいもあるのか本作からは物語や舞台装置、画面の色彩感覚まで、監督の西欧志向がうかがえる。ディープな韓流ファンからは反発も予想されるが、何も土臭い作品ばかりが韓国映画である必要はないわけで、スマートで瀟洒な映画づくりに徹したところは評価すべきだろう。ヒロインの佇まいはグラビア雑誌から飛び出したモデルそのもので、映画の登場人物としては違和感もあるが、ソン・ガンホとの組み合わせで妙味が生まれている。ヤクザ同士の確執から男女の機微にいたるまで、登場人物のひとりひとりに物語を感じさせる脚本も見事だと思う。 
[推理作家協会報2012年6月号]
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