カエル少年失踪殺人事件/イ・ギュマン監督(韓・2011)


韓国では、二○○七年の法改正で殺人事件の公訴時効がそれまでの十五年から二十五年になったが、その見直しのきっかけとなったふたつの重大未解決事件があったという。そのひとつが、『殺人の追憶』(2004)でボン・ジュノが描いた華城近辺で起きた連続強姦殺人事件で、真犯人の逮捕に至らぬまま二○○六年に時効が成立した。もう一件が、一九九一年に大邱でカエルをとりにいくと言って出かけた五人の少年が姿を消した事件で、軍隊が出動し周辺の捜索にあたったものの手がかりはなく、その十一年後に全員が白骨死体となって見つかったが、犯人逮捕に至らぬまま二○○六年に時効を迎えている。イ・ギュマン監督の『カエル少年失踪殺人事件』は、この事件を扱ったものだ。
大邱近郊の山麓の村で、国民学校に通う5人の少年たちが姿を消した。折りしも地方選挙の投票日と重なったことから初動捜査に遅れが生じ、大掛かりな山狩りを行うも成果を得られなかった。左遷先の地方支社から中央TV局への返り咲きを狙うプロデューサーのパク・ヨンウは、少年のひとりの父親であるソン・ジルに目をつける社会学教授のリュ・スンリヨンを担ぎ出す。事件を担当する刑事のソン・ドンイルをなんとか口説きおとし、捜査の矛先を少年の一家へと向けさせるが、家宅捜索からは何の手がかりも得られないまま、事件は迷宮入りしてしまう。
韓国ミステリ映画の質の高さには毎度目を瞠るものがあるが、この作品も期待を裏切らない。韓国にとって混乱の時代を描いていることもあって、警察の動きはときに杜撰にも映るが、捜査の試行錯誤を描く手に汗握る面白さがいいし、戦慄の犯人像の描写にも名状しがたい迫力がある。そしてハイライトは終盤に登場人物のひとりが述懐する場面である。一瞬にしてある重要な謎が見事に氷解するカタルシスは、『母なる証明』で犯人の動機が明らかにされるあの場面にも匹敵するといっていいだろう。一度聞いたら忘れられない邦題だが(韓国では事件をこの通称で呼ぶことが多いという)、ちょっとネタバレ気味なのが惜しい。
日本推理作家協会報2012年6月号]
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