希望の記憶/ウィリアム・K・クルーガー(講談社文庫)

ウィリアム・K・クルーガーの『希望の記憶』は、先に刊行されている『闇の記憶』と密接な繋がりを持つ後日談である。前作の尻切れトンボだった結末にもやもやした思いを抱き、本作を待ちわびていた読者も多いに違いない。
保安官の職に返り咲いたものの厄介な事件に巻き込まれ、わが身だけでなく家族も危機にさらされることになったコーク・オコナーは、命からがらたどり着いたスペリオルの湖岸で獣医を営む従姉妹ジュエルの家に身を隠すこととなった。彼女の応急手当を受け、回復を待つコークだったが、町では身元不明の少女の水死体が発見される。ほぼ同時にジュエルの息子レンの親友チャーリーの父親が惨殺される事件が起き、町は騒然とした空気に包まれていく。
手負いの身で、行動がままならない主人公コークだが、本作の真の主役は、彼の従甥レンとその友人のチャーリーだろう。十四歳の少年少女の目を通じて語られていく少女の水死事件の様子は、事件の無残さをまるで浄化するかのように、新鮮で瑞々しい。父親殺しの容疑がかけられたチャーリーを慮ってレンが苦悩するなど、ふたりの間に甘酸っぱい思春期の感情が浮かんでは消えるあたりも絶妙だ。
一方、前作から引き摺る裏社会の顔役ジャコビとの因縁にも決着がつけられる。クライマックスの対決は、タイプこそ違うが、トム・ロブ・スミスの『エージェント6』を思い出した。作者自身の苦悩も伝わってくる迫真のシーンといっていいだろう。自然との共存思想や家族愛といった主題の絡め方も見事で、高らかに謳いあげるミステリの詩情は、いまやジョン・ハートの作品にも比肩するのではないか。いい作家になったなぁ、ウィリアム・K・クルーガー。
[ミステリマガジン2012年2月号]

希望の記憶 (講談社文庫)

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