午前零時のフーガ/レジナルド・ヒル(ハヤカワ・ミステリ)

爆破事件に巻き込まれて入院し、生死の境をさまよった『ダルジールの死』。リハビリのための海辺のクリニックで事件と遭遇する『死は万病を癒す薬』ときて、いよいよわれらがダルジール警視も第一線に完全復帰、と思いきや、日曜を月曜と間違ってしまい、警視が大慌てするところから始まるのが、二十二作目にして、シリーズ最新作の『午前零時のフーガ』である。
そんなダルジールは、出勤途中に曜日を確かめようと立ち寄った教会で、車であとをつけてきた美女から、奇妙な依頼を受ける。彼女の名前はジーナという。かつて首都警察に勤務する警部と結婚していたが、七年前に相手は失踪。死んだものと思っていたところ、再婚しようとした矢先に、夫が生存していることを示す写真を何者かが送りつけてきた、という。再婚相手が、知り合いの警視正だったこともあって、ダルジールは非公式な立場から事の真相をつきとめようと調査を始めるが、ジーナの身辺にはつきまとう奇妙な影があった。
全体は、交響曲よろしく四つの大きな章からなっていて、それに続く小さな終章がエピローグの役割を果たしている。ときに下世話にもなるユーモアにくすぐられ全体像が見えないもどかしさに引っぱられてページをめくっていくと、やがて浮かび上がる驚くべき事件の構図に読者は息を呑むこと必至。さらに待ち受ける終章はまさに画竜点睛で、収まるべき場所にすべてがきちんと収まるしめくくりは、読者を謎解きの快感で満たしてくれる。御年七十四のヒルの老獪さは、円熟の境地を越え、ますます磨きがかかっているようだ。
[ミステリマガジン2011年4月号]

午前零時のフーガ (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

午前零時のフーガ (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)