最後の音楽/イアン・ランキン(ハヤカワ・ミステリ)

イアン・ランキンの『最後の音楽』は、ほぼ二十年という長い歳月にわたって発表されてきたシリーズの最終作だ。定年退職の日を目前にひかえたエジンバラ警察犯罪捜査部のツワモノ警部、ジョン・リーバスの警察官生活最後の十日間を描く作品である。
追われるように母国のロシアをあとにした反体制の詩人トドロフが、エジンバラ城そばのうら寂しい通りで、顔をめちゃくちゃに殴られた死体となって発見された。リーバス警部は相棒のシボーン部長刑事とともに、現場の近隣で聞き込みをすると同時に、死の前日に開催されていた詩の朗読会の模様を録音していたという録音技師のリオダンを訪ねる。しかし、間もなく彼のスタジオが放火され、リオダンは焼死体で発見される。
第一作の『紐と十字架』と後年の作品では、同一人物とは思えない変貌を遂げるリーバス警部だが、それはすなわちランキンという作家の成長のしるしでもあったと思う。そしてたどり着いた本作では、三十年という警察官人生で磨きをかけた人の悪さとわが道を貫き通す頑固一徹さで、亡命詩人の死とそれを取り巻く事件に、リーバスは最後の喰らいつきを見せる。上司からのレッドカードをものともしない主人公の執念も見ものだが、長年の宿敵カファティと因縁の対決というクライマックスに相応しい見せ場もある。複雑に絡み合った事件を根気よく丁寧に解きほぐしていく捜査過程の面白さも、シリーズ最高峰のものといっていいだろう。幕切れの一節に至るまで、まさに作者と主人公の魂がこめられた力作である。
[ミステリマガジン2011年2月号]

最後の音楽―リーバス警部シリーズ (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

最後の音楽―リーバス警部シリーズ (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)