路上の事件/ジョー・ゴアズ(扶桑社文庫)

ジョー・ゴアズといえば、一般には映画にもなった「ハメット」の原作者として、ミステリ・ファンにはDKA(ダン・カーニー探偵事務所)シリーズの作者として馴染みのある作家だけれど、すでに過去の人だと思っている方が多いのではないか。実はわたしもそのひとりだったのだが、久々に紹介された『路上の事件』を読んでびっくり。いや、御歳七十を越えて、こんな素晴らしい作品を書いていたのか。
主人公は、作家志望の青年で、彼は人生経験を重ねるために、一人旅に出ている。その行く先々で、さまざまな出来事に巻き込まれるというオムニバス風の長篇小説である。わりと緩めの空気を一気に引き締めるのが後半で、やがて青年はサンフランシスコの探偵事務所に辿り着き、見習いの私立探偵の仕事を得るのだが、そこからの展開が、通り過ぎた過去と深く絡みあっていく。ありきたりの成長の物語に収めない終盤のドラマチックな展開がなんともお見事。本国では、昨年も新刊をリリースしているようで、まだまだ現役として応援しなければいけない作家だ。
本の雑誌2007年10月号]
(追記)ゴアズは2011年1月に亡くなりました。

路上の事件 (扶桑社ミステリー)

路上の事件 (扶桑社ミステリー)