6人の容疑者/ヴィカーズ・スワループ(武田ランダムハウスジャパン)

『ぼくと1ルピーの神様』という小説に思いあたらなくても、それを原作としてアカデミー賞に輝いた映画「スラムドッグ$ミリオネア」を知らない人はいないだろう。作者のヴィカーズ・スワループは、大阪に赴任中のインド総領事という人物だが、その第二作は付けも付けたり、ミステリファンをまるで狙い討ちにしたかのような『6人の容疑者』がタイトルだ。
人間のクズとまで言われる映画プロデューサーのヴィッキー・ラーイが、大邸宅で催されたパーティのさなかに射殺された。州大臣である父親の庇護のもと、過去には人殺しの罪を犯しながらも法の裁きを逃れてきた悪党に、神の鉄槌を食らわせた者は誰か? 警察は犯行現場に居合わせた官僚、政治家、外国人、部族民、大スター、泥棒の六人の容疑者を逮捕するが。
一種の倒叙ミステリだが、上下巻七百頁の大部分は、被害者の悪辣きわまりない過去とともに、それぞれの容疑者とのかかわり、彼らの背負う過去のエピソードなどが詳らかにされていく大河群像劇からなっている。その一つ一つはドラマチックで読み応えがあるし、アラヴィンド・アディガの傑作『グローバリズム出づる処の殺人者たち』を思い出させる現代インドへの痛烈な社会性も込められてはいる。しかし注目すべきは、ラスト数十頁という終盤で切って落とされる怒涛の展開で、まさにミステリファンに至福の時が訪れる。伏線を回収しつつ、絢爛な多重解決と物語のカタルシスを両立させる腕前には感嘆するほかない。最後の最後まで気を抜かずに頁を繰っていただきたい作品だ。
[ミステリマガジン2010年12月号]

6人の容疑者 上

6人の容疑者 上

6人の容疑者 下

6人の容疑者 下