白夜に惑う夏/アン・クリーヴス(創元推理文庫)

前作『大鴉の啼く冬』は、スコットランドの北東に位置するシェトランド本島の厳しい冬の物語だった。前作の好評を受けて登場となるこの『白夜に惑う夏』は、白夜が続く同じ舞台の短い夏に起きた事件が描かれる。作者はイギリスの女性作家アン・クリーヴスで、前作とともに、〈シェトランド四重奏〉と銘打たれた四部作の一角をしめる作品だ。
賑わう筈の絵画展が客足の少ないまま幕となった晩、不可解な事件は起こった。会場の画廊で絵を見て奇矯なふるまいをしていた男が、翌朝近くの小屋で首吊り死体となって見つかったのだ。死体は、なぜか道化師の仮面をつけていた。検死の結果他殺だということが明らかになるが、地元警察のペレス警部の捜査は難航。やがて、冬の事件に続いてインヴァネス署のテイラー主任警部が指揮をとるが、捜査の糸口を掴めないまま第二の事件が起きてしまう。
主人公の警部ペレスの不調は、どうやら前作で知り合った画家フランとの不安定な愛情関係に原因があるようだ。しかし、謎につつまれた男の死をめぐる雲を掴むような事件も、フランと共同で絵画展を開催した才気煥発な美女ベラの甥っ子が次の犠牲者となったことをきっかけに動き始める。ベラの手元で眠っていた一枚の写真により、過ぎ去った過去と現在の事件を結ぶ細く長い糸が明らかになっていく展開は、凛として鮮やか。小さなコミュニティの濃やかな人間関係を描くうまさは、すでに前作でおなじみだが、過去のエピソードと呼応しながら最後に浮かびあがる悲劇的な事件の構図が切なく胸にしみる。
[ミステリマガジン2009年10月号]

白夜に惑う夏 (創元推理文庫)

白夜に惑う夏 (創元推理文庫)