修道女フィデルマの叡智/ピーター・トレメイン(創元推理文庫)

ピーター・トレメインの〈修道女フィデルマ〉シリーズは、七世紀の古代アイルランドを舞台に、王族の血をひく法律家で美貌の修道女フィデルマの活躍を描く歴史ミステリだが、そのヒロインのクールな佇まいと、彼女の快刀乱麻の如き謎解きがセールスポイントになっている。これまで二長篇が紹介されているが、邦訳としては三冊目となる『修道女フィデルマの叡智』は、日本独自で編まれた短編集で、五篇を収録している。
出張先のローマで不可解な毒殺事件に遭遇する「聖餐式の毒杯」や、ゴーストストーリーに合理的な解釈を与えていく「旅籠の幽霊」など、いずれも精緻な推理が光っているが、その時代を髣髴とさせる風俗描写の巧みさとともに、背景に人間ドラマが見え隠れする物語の豊かさが特徴。先の二長篇も良かったが、さらなる読者を獲得すること必至の高レベルな作品集だ。
本の雑誌2009年9月号]

修道女フィデルマの叡智 修道女フィデルマ短編集 (創元推理文庫)

修道女フィデルマの叡智 修道女フィデルマ短編集 (創元推理文庫)