匿名投稿/デブラ・ギンズバーグ(扶桑社海外文庫)

日本で作家がデビューするには新人賞に応募する場合が多いようだが、アメリカの作家の卵たちはもっぱら出版エージェントに原稿を持ち込むという。小説は本作が初というデブラ・ギンズバーグの『匿名投稿』は、このアメリカで出版界を牛耳る出版エージェントの世界にスポットライトをあて、その知られざる舞台裏を読者に覗かせる作品だ。
本好きのエンジェルは、勤めていた書店が潰れ、転職を余儀なくされた。悩んだあげくに、作家志望の恋人マルコムの奨めもあって、出版エージェントのオフィスに就職するが、カリスマ経営者ルーシーのモーレツな仕事ぶりに、彼女は気おされるばかり。だが次第にキャリアを軌道に乗せ、藁の中からピンを見つけるが如く金の卵の才能を発見したり、二人三脚で売れる小説に手直しをしたり。そんな彼女に、ある日奇妙な原稿がメールで届けられる。業界の内幕小説で、主人公は彼女をモデルにしていると思しい。送り主は恋人のマルコム、それとも?意外にも原稿がルーシーの眼鏡にかなったことから、エンジェルは断片的に送られてくる謎の作品に翻弄されていく。
出版界を舞台に、ヒロインが苦難の階段を上っていくサクセスストーリーとして抜群のリーダビリティがある。サスペンスやロマンスの要素も適度にあって、これだけで本作はエンタテインメントとして十分な合格点に達している。ただ、謎の原稿をめぐる展開には、終盤で意表をつく種明かしが待ち構えているが、作者にあまり意識がないのだろう、ミステリとしてはややツボを外している感があって、ちょっと残念。
[ミステリマガジン2009年7月号]

匿名投稿 (扶桑社ミステリー)

匿名投稿 (扶桑社ミステリー)