野望への階段/リチャード・ノース・パタースン(PHP研究所)

本国ではバリバリと新作が上梓されているというのに、新潮文庫で「ダーク・レディ」が出たのを最後に、四年以上も翻訳紹介が途絶えていたリチャード・ノース・パタースン。ファンとしてはイライラが募る日々を送っていたのだけれど、やっと二○○七年の新作『野望への階段』が出た。今回はノンシリーズのようで、党の大統領候補の座をめぐって、ライバルの候補たちとしのぎを削る共和党上院議員が主人公である。
ダーティ・ビジネスと化した大統領予備選の舞台裏を描く情報小説の興味もたっぷりあるのだが、地雷原のような選挙戦をまるで生き馬の目を抜くように戦っていく大統領候補グレイスの物語として読み応えがある。主人公には、イラク戦争の英雄という輝かしい過去があるのだが、実は家族や、戦友の思い出をめぐって、トラウマともいえる心の闇も抱えている。そんな彼が窮地に陥りながらも、それを果敢に乗り越えていく展開には、胸のすく面白さと成長の物語のカタルシスがある。物語の背景に広がるテロや人種差別などアメリカの社会が抱える問題を浮き彫りにされる中、家族や恋人という個人の領域と政治的な立場の間で、勇気ある前進を続けていく主人公が究極の選択を行う物語の締めくくりが、実に鮮やかだ。
本の雑誌2009年4月号]

野望への階段

野望への階段