ワールド・オブ・ライズ/リドリー・スコット監督(2008・米)


リドリー・スコット監督の『ワールド・オブ・ライズ』は、9・11以降、より一層深くなった中東の闇を描いている。主人公のレオナルド・ディカプリオは一匹狼のCIA工作員で、米欧諸国を脅かしている爆弾テロの首謀者アロン・アブトゥブールを必死に追っている。ある時、敵方の資料から彼のアジトを発見したディカプリオは、ラングレーの反対を押し切り、冷酷で切れ者という定評がある地元ヨルダン情報部の局長マーク・ストロングに協力を要請するが。老獪な司令官のラッセル・クロウが、さまざまなハイテク機器を駆使し、まるでゲームに興じるように本部から作戦を指揮する姿は、滑稽であると同時に、重たい現実とのあまりのアンバランスさに背筋が冷たくなる。まさに火中の栗を拾うような任務のさ中、ディカプリオがテロリストやヨルダン情報部らと繰り広げる虚々実々の駆け引きの面白さもあるが、主人公に襲いかかる運命に、ベトナム以降、アメリカが繰り返し身をもって味わっているであろう異郷の紛争に介入することの困難さを、またもや見せつけられる思いがする。最後にディカプリオが達する境地にこそ、この物語のシニカルな寓意が込められているに違いない。
日本推理作家協会報2009年3月号]
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