コンラッド・ハーストの正体/ケヴィン・ウィグノール(新潮文庫)

ロバート・J・ランディゲージ編のアンソロジー「殺しのグレイテスト・ヒッツ」の収録短編などでその名を見かけた読者も多いと思うケヴィン・ウィグノールだが、『コンラッド・ハーストの正体』で長編初登場。すご腕の殺し屋コンラッドが、あるとき長年手を染めてきた稼業から足を洗おうと決意し、そのためにボスや連絡役など彼の正体を知るひと握りの人間たちを消し去ろうと旅に出るが。
殺しの巡礼の物語と思いきや、標的のひとりが洩らした死に際の一言が、主人公の過去に疑問を投げかけ、旅の目的を過去の抹殺から自分探しへと変えてしまう。次々に接触してくる不審な人物たちや、彼を追うCIAご一行の不可解な態度など、コンラッドの正体をめぐり混乱を深めていく展開はまったく予測不能で愉快かつスリリング。さらに、すべての顛末が晒される幕切れのカタルシスが、たまらなく感動的だ。
本の雑誌2009年3月号]

コンラッド・ハーストの正体 (新潮文庫)

コンラッド・ハーストの正体 (新潮文庫)