崖っぷちの男/アスガー・レス監督(2012・米)


付けも付けたりという『崖っぷちの男』というタイトルだが、マンハッタンにある老舗ホテルの二十一階がその舞台となる。その朝チェックインした謎の男サム・ワーシントンは、食事を終えるや窓の外に立ち、そばに来たら飛び降りるぞと宣言する。野次馬や警官を眼下に見おろす彼の正体は、やがて元警官の脱獄囚と判明。罪状は宝石の窃盗で、被害を訴え出た不動産王はホテルの真向かいにビルを構えていた。指名を受けた交渉人の女性警官エリザベス・バンクスは必死に説得を試みるが、実は彼には密かな企みがあった。
シンプルな佇まいの中に仕掛けられた複雑なシチュエーションが面白い。自殺騒動と並行して、ジェイミー・ベルとその恋人ジェネシス・ロドリゲスの繰り広げる作戦には、ケイパー(襲撃)ものの楽しさとスリルがたっぷり。ややご都合主義の部分もあるが、全体を包み込むユーモアのセンスが、一見ありえないお話にフィクションとしての命を吹き込んでいる。デンマーク出身の監督のアスガー・レスは、本作が劇映画初メガホン。
日本推理作家協会報2012年9月号]
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