ロスト・シティ・レディオ/ダニエル・アラルコン(新潮社クレスト・ブックス)

最近では、二○一○年にヴィクター・ロダートの『マチルダの小さな宇宙』が受賞作に輝いたPEN/USA賞だが、その二年前に同賞を受賞している『ロスト・シティ・レディオ』。作者のダニエル・アラルコンはペルーに生まれ、アメリカの大学に学んだというニューヨーカー誌などでも絶賛されている新進の作家だ。
舞台は、南米の架空の国である。長らく続いた内戦状態にピリオドが打たれて間もないこの国では、あるラジオ番組が人気を博していた。生死も定かでない行方不明者に放送で呼びかけ、家族と本人を結びつけるというのが趣旨だった。ある日のこと、ビクトルという名の少年がジャングルの奥地の村から都会にある放送局を訪ねてくる。彼の訪問は、亡き母親の意思だという。しかし、彼の携えてきた不明者のメモを見たパーソナリティのノーマは、そこに失踪中の夫レンの名を見つけ、胸騒ぎをおぼえる。
訳者あとがきに曰く、本作における「電流が流れているように感じられるほどの張りつめた文章」とは、すなわち全編を貫くサスペンスだろう。しかし、それだけにとどまらない。ロインの夫はどこに消えたのか? そして彼が連れていかれたことのある「月」とは何なのか?シンプルだが強烈な謎に導かれて、読者はぐんぐん物語の中に引き込まれていく。時系列をめまぐるしく入れ替えるなど、ときに読者を幻惑する部分もあるが、いくつもの謎が複雑に絡み、やがてそれが解き明かされていくのは実に快感。ミステリ好きのツボをたっぷりと刺激してくれる作品といっていいだろう。
[ミステリマガジン2012年4月号]

ロスト・シティ・レディオ (新潮クレスト・ブックス)

ロスト・シティ・レディオ (新潮クレスト・ブックス)