ローラ・フェイとの最後の会話/トマス・H・クック(ハヤカワ・ミステリ)

トマス・H・クックの作品は秋という季節がよく似合う。ベストテンの季節とも関係があるのだろうが、今年もこの時期にクックの新作が届けられたのが嬉しい。『ローラ・フェイとの最後の会話』は、二○一○年の新作で、〈ハヤカワ・ミステリ〉に移籍して(?)の第一作となる。
自著の宣伝を兼ねた講演会でセントルイスを訪れた主人公の歴史学者ルークは、会場で意外な人物に目をとめる。二十年前父親の経営するバラエティ・ストアで働いていたローラ・フェイだった。近づいてきた彼女は、著書にサインを求め、少し話でもしないかと持ちかけてきた。怪訝に思いつつも応じた主人公だったが、ほどなく彼女の中にある同郷のよしみ以上の何かに気づく。実は彼の中にも、長い間彼女と父親に対するわだかまりが眠っていたのだ。ローラに乞われるまま過去を回想するうちに、その昔故郷の田舎町グレンヴィルで起きたことの真実が改めて別の形をなしていく。
 九十年代に入って以降のクックの充実ぶりは、不出来な作品を探すのに苦労するほどだが、パターンは割と一定している。まず過去の出来事があって、それをめぐる謎が解き明かされたり、事実が再構築されたり。しかし、それでいて読者を飽かさないのだから、ストーリーテラーとしての腕は半端なくすごい。派手さがない分、それは際立っていると思う。少年時代の事件をめぐって、登場人物が引き摺るエゴやコンプレックスの深層を解き明かしていく本作もその例外ではない。読みなれた読者には、こうなって行くだろうと察せられてしまう部分もあるが、それでもカタルシスはあるし、感動もある。マンネリズムを回避するかのような、クックらしくない結末(ただし先例はある)も悪くないと思う。
[ミステリマガジン2012年1月号]

ローラ・フェイとの最後の会話 (ハヤカワ・ミステリ 1852)

ローラ・フェイとの最後の会話 (ハヤカワ・ミステリ 1852)