川は静かに流れ/ジョン・ハート(ハヤカワ文庫)

五年前に殺人の冤罪で故郷を追われた主人公の青年アダムは、一度は訣別した過去と再び対決する覚悟で、故郷の田舎町に戻ってきた。しかし彼を呼び寄せた親友は、入れ違いに町から姿を消していた。彼を勘当した父親や前の恋人との距離感も掴めないまま、アダムはかつての悪夢が甦るような事件に巻き込まれていく。ジョン・ハートの『川は静かに流れ』は、そんな窮地に立たされた主人公が、彼を苦しめる過去、そして現在の事件の真相を明らかにしていくことで、再び彼を愛する人々との信頼関係を回復していくまでの物語である。
肉親との血の絆や恋人との愛情関係など、その繋がりの深さゆえに脆さもある人間関係のジレンマを、作者は主人公の鬱屈という形で描いている。しかし、その弱さを乗り越え、苦悩と葛藤の末に大切なものを取り戻す主人公のポジティブな姿には、率直に感動できる。ミステリとして作者が仕掛ける手練手管も、ややあざといところはあるものの、ドラマチックな物語の展開に大きく貢献している。二作目にして昨年度のエドガー賞受賞作。いい作家になりましたね、ジョン・ハート
本の雑誌2009年4月号]

川は静かに流れ (ハヤカワ・ミステリ文庫)

川は静かに流れ (ハヤカワ・ミステリ文庫)