雨の牙/バリー・アイスラー(ヴィレッジブックス)

創刊してまだ間もないけれど*1ソニー・マガジンズの<ヴィレッジブックス>はなかなかユニークな路線を狙っているようで、今後が楽しみな叢書だ。バリー・アイスラーの『雨の牙』もその一冊だが、東京を舞台に、殺し屋が政治がらみの謀略に巻き込まれた女を守ろうと奔走するサスペンス小説である。主人公の殺し屋がベトナムの特殊部隊あがりというありがちな設定だったり、重要な出会いが偶然によるものだったりと、新人作家の習作といわれてもしょうがないような未熟さがあちこちに残されている。しかし、東京の今日的な風俗やジャズという小道具を巧みに織り込みながら、軽快な饒舌で飛ばしていくスタイルは、抜群の読み心地で、読者を飽かさない。日本びいきの作者らしく、わが国読者に非常にフレンドリーで暖かな印象を与えてくれるのも買いである。
本の雑誌2002年4月号]

雨の牙 (ヴィレッジブックス)

雨の牙 (ヴィレッジブックス)

*1:勿論、この稿を書いていた2002年1月頃の話題。文庫レーベルとしてのヴィレッジブックスの創刊は2001年のこと。