ココデナイ ドコカ/島村洋子(祥伝社文庫)

島村洋子の短編小説には、天才の閃きがあると常々思っているが、『ココデナイ ドコカ』も、やはり短編の名手の名に恥じない作品が揃っている。ひとつひとつの作品は、わずか三十ページ余りだが、そこには登場人物たちの生き方の断面が投影されているし、何より予断をまったく許さない結末が読者を待ち受けているのだ。
ひとつには素材の新鮮さがあるし、それだけに溺れない物語の強さも備えている。ひとりの男性をめぐるふたりの女性の人生が思わぬ形で交叉する「むらさき」や、ブランド物をめぐる巧妙な詐欺を織り込んだ「嘘恋人」など、奇妙な味にも似たエンディングの余韻が個人的には好みだが、全作品ハイライトとでもいうべき質の高さが、読む者を圧倒する。

ココデナイドコカ

ココデナイドコカ

[新刊展望2003年12月号]