2011-06-01から1ヶ月間の記事一覧

15のわけあり小説/ジェフリー・アーチャー(新潮文庫)

力のこもった長編の数々に較べると、その箸休めというか、余技的と思えるものがこれまでは多かったが、今回の『15のわけあり小説』では、そんな器用さよりも短編作家としての本領を見せつける作品が多いことに嬉しい驚きをおぼえる。 例えば、収録作のひとつ…

黄昏に眠る秋/ヨハン・テオリン(ハヤカワ・ミステリ)

舞台を固定しての春夏秋冬をめぐる連作というと、スコットランド沖に浮かぶ島々を舞台にしたアン・クリーヴスの〈シェットランド四重奏〉がすぐに思い浮かぶが、ヨハン・テオリンの『黄昏に眠る秋』はスウェーデンの南東、バルト海上のエーランド島の移り行…

刑事ベラミー/クロード・シャブロル監督(2009・仏)

『刑事ベラミー』は、2010年9月に惜しまれて世を去ったクロード・シャブロル監督の遺作にあたる。妻のマリー・ビュネルに引っぱられるように、彼女の実家である夏の南フランスをバカンスで訪れた刑事のジェラール・ドパルデュー。そこに、忽然と謎の男…

引き裂かれた女/クロード・シャブロル監督(2007・仏)

特集上映や研究書の翻訳出版など、クロード・シャブロルをめぐり改めての評価が進められているようだ。先の東京国際映画祭で上映された遺作の『刑事ベラミー』を取り上げたときにも触れたが、かつてヌーベルバーグの旗手と謳われたこの巨匠にはヒッチコック…

わたしを離さないで/マーク・ロマネク監督(2010・英米)

五年前に翻訳紹介された原作は、純文学系の作品でありながら、その年の〈このミス〉でベストテンにも滑り込んだ日系のイギリス作家カズオ・イシグロの『わたしを離さないで』である。それを、デ・パルマの下についたこともあるというMTV世代の監督マーク…

悪童 エリカ&パトリック事件簿/カミラ・レックバリ(集英社文庫)

ここのところ台頭めざましい北欧の作家勢の中で、〈ミレニアム〉三部作のラーソンと肩を並べる最右翼は、間違いなくこのカミラ・レックバリだろう。彼女の〈エリカ&パトリック事件簿〉も、『悪童』でシリーズ三作目を迎える。主人公のカップル、小説家のエ…

キラー・インサイド・ミー/マイケル・ウィンターボトム(米瑞英加・2011)

メガホンをとっているのは、イギリス出身の監督マイケル・ウィンターボトム。町の保安官助手をつとめる主人公のケイシー・アフレックは、上司である保安官のおぼえもよく、長年付き合っている恋人ケイト・ハドソンと愛し合っている。しかし、あるとき市民か…