2010-03-01から1ヶ月間の記事一覧

夜の冒険/エドワード・D・ホック(創元推理文庫)

怪盗ニック・ベルベットや医師のサム・ホーソーンなど、日本独自に彼らの事件簿がまとめられるほどエドワード・D・ホックのシリーズものは人気を誇ってきたが、短篇のマエストロとしての仕事は、それらの作品集に限ったわけではない。以前刊行されたノンシリ…

高慢と偏見とゾンビ/ジェイン・オースティン&セス・グレアム=スミス(二見文庫)

この新刊が書店に並ぶや、同時に古典的な名著として名高い本家作品の方も俄に売り上げを伸ばしたとか。十九世紀のイギリス文壇を代表する作家のひとりジェイン・オースティンの代表作を、セス・グレアム=スミスが血みどろのゾンビ小説に仕立て直して話題と…

絵画鑑定家/マルティン・ズーター(ランダムハウス講談社文庫)

非英語圏からの優れたミステリの紹介が続いているが、ドイツのフィツェックやスウェーデンのラーソンらと並んで話題になるであろうマルティン・ズーターは、スイスからの登場だ。英国推理作家協会のダンカン・ローリー・インターナショナル・ダガー(最優秀翻…

出走/ディック・フランシス(ハヤカワ文庫)

全盛期は年に一度届けられる読者への贈り物だったフランシスの長篇だが、晩年はそれに替わって短篇集が届けられた年もあった。 新刊を手にとって、いつになく薄っぺらなのに驚き、あれれ大丈夫かな、と思ったディック・フランシスの前作「騎乗」から、ほぼ一…

敵手/ディック・フランシス(ハヤカワ文庫)

「再起」以降は、実質息子フェリックスの作であることは公然の秘密だとして、生涯のパートナーであり、創作にも手を貸していたといわれるメアリー(2000年に死去)がどの作品に協力していたかは明かされていない。ともあれ、1997年に出たこの「敵手」は、フ…

祝宴/ディック・フランシス&フェリックス・フランシス(早川書房)

『祝宴』は、復活した新生ディック・フランシスの第二弾。怪しいと思っていたがやはり合作者がいて、今回から息子のフェリックス・フランシスも連名でクレジットされるようになった。今回は馬の調教師を父親に持ちながらシェフとして成功した主人公が、自分…

再起/ディック・フランシス(ハヤカワ文庫)

新競馬シリーズ(あえてそう呼ぶ)の第一弾。以下にも懐疑的に書いたように、正直ファンにはいかにも不自然な復活に映ったが、後の展開から考えると、息子のフェリックスが手を貸して、いやほとんど彼の作品であったことは間違いのないところ。とはいえ、こ…

拮抗/ディック・フランシス&フェリックス・フランシス(早川書房)

「再起」で鮮やかな復活を遂げ、その後は父ディックと息子のフェリックスのフランシスの親子連名作品となった新競馬シリーズも、『拮抗』で早や四作目。今回の舞台に選ばれたのは、競馬専門のブックメーカー(賭け屋)の世界で、英国競馬界におけるオッズを…

死のオブジェ/キャロル・オコンネル(創元推理文庫)

「クリスマスに少女は還る」がリリースされた時点でキャロル・オコンネルの名を記憶していた読者がいたとするならぱ、その人は相当のミステリ通だろう。それくらいに、オコンネル作品の初紹介は地味で目立たないものだった。その作品とは、九四年に竹書房文…

アマンダの影/キャロル・オコンネル(創元推理文庫)

キャロル・オコンネルのマロリーものの第二作にあたる『アマンダの影』。前作の「氷の天使」で停職をくらっていたマロリーだが、彼女のブレザーを身に付けた死体が発見されたことから、捜査の第一線に復帰する。遺された手がかりである未刊の私小説原稿をめ…

氷の天使/キャロル・オコンネル(創元推理文庫)

翻訳者の務台夏子さんが、本日の〈翻訳ミステリー大賞シンジケート〉で『少女はクリスマスには還る』をイチおしとして取り上げているが、それによると新作の翻訳紹介が待機しているらしいキャロル・オコンネル。久々の登場に期待が膨らむオコンネルの旧作と…

螺鈿の四季/ロバート・ファン・ヒューリック(ハヤカワ・ミステリ)

戦後間もなく出た「迷路の殺人」を皮切りに、版元や訳者を替わり、形態を変えながら紹介されてきたロバート・ファン・ヒューリックのディー判事ものだが、シリーズに未紹介の虫食いがあるのと、絶版、品切れになるケースが多いので、読者を悩ませてきた。しか…

天来の美酒/消えちゃった/アルフレッド・エドガー・コッパード(光文社新訳古典文庫)

体系的な紹介を期待するのではなく、何が出てくるか判らないびっくり箱的な興味で新刊を見守っている光文社の古典新訳文庫だが、そうか、これを出したか、と唸らされたのがアルフレッド・エドガー・コッパードの『天来の美酒/消えちゃった』だ。コッパード…

警官の証言/ルーパート・ペニー(論創社)

いわゆる黄金時代の末期に、コリンズ社のクライムクラブ叢書から「一ペニーでパズルを」の惹句とともに売り出された作家として有名なルーパート・ペニー。近年、別名義が明らかになったと聞くが、レギュラー探偵としてスコットランドヤードの主任警部エドワ…

ブラッド・メリディアン/コーマック・マッカーシー(早川書房)

コーマック・マッカーシーは、言わずと知れた現代アメリカを代表する主流文学系作家のひとりで、『血と暴力の国』や『ザ・ロード』が話題となり、近年わが国読者の間でも急速に注目を集めている。前記の二作のほかにも、九十年代に発表された『すべての美し…

ロード・キル/ジャック・ケッチャム(扶桑社海外文庫)

さまざまな職業を転々とした挙げ句に、小説を書いてみたらあたったなんて、作家の略歴の定番みたいなものだし、同じ英語圏でも大西洋を挟んでイギリスとアメリカの両国で刊行された作品の書名が異なるというのも、クラッシク・ミステリの時代からよくあるこ…

オフシーズン/ジャック・ケッチャム(扶桑社海外文庫)

ジャック・ケッチャムの『オフシーズン』である。ケッチャムがいわゆる鬼蓄系の作風を有しながら、その実、堂々たる小説の書き手であることは、熱心なホラー・ファンならすでにご存知だと思う。本作は、そのケッチャムが世に出るきっかけとなった幻のデビュ…